人事査定の怪
弊事務所のノンリーガル社員の査定評価は以下のような仕組みになっています。
1.査定する上司と査定される部下のそれぞれが一年の仕事を振り返ってスキル評価、達成事項、改善案などについて査定用紙に記入して人事課に提出します。
↓
2,人事がチェックしてコピーをとった後で、上司の評価が部下へ、部下の自己評価が上司へ渡されます。
↓
3,それぞれが記入した査定用紙を突き合わせて上司と部下が話し合いを行い、今後の努力目標や研修等について合意した事項を更に別の用紙に記入署名して人事課に提出します。
複数の弁護士のお世話をしている秘書の場合、一年以上一緒に働いている一番シニアの弁護士が査定をすることになります。
しかし超多忙なパートナーを長年勤めているシニア秘書等は、時間がないと言って人事に泣きついて免除してもらう人もいます。
実際10年以上も同じ弁護士について毎年毎年同じ仕事をこなしているベテラン秘書にとって「今年の新たな目標を書け」なんて言われても困っちゃうんですよね。
そもそも秘書にキャリアアップの道なんて示されていないんですからムダと考える人も多いのです。
私がポジションを変わる一年前の査定はウィル とニコレッタ が共同で査定してくれました。
私にとってウィルが一番シニアのボスでしたが、ウィルの秘書を勤めてまだ一年以上経っていなかったからです。
ウィルとニコレッタとはとても良い人間関係にあったので、査定のミーティングといっても近くのカフェに抜け出してコーヒーを飲みながら和気あいあいとしたものでした。
人事経由で受け取った査定用紙には良いコメントばかり書いてくれていました。
彼らは私が秘書のポジションから抜け出してもっとスキルを活かせる仕事につきたいことを知っていて「応援するから」と励ましてくれました。
さて、カフェからの帰り際、ニコレッタが「ちょっとオフィスに寄ってって」と手招きします。
そして「そこドア締めて」と合図します。
何か内緒話があるようです。
「どうしたの?」と聞くと
「査定の件でちょっと耳に入れておいてほしい事があるのよ」と言います。
「実はね、あなたが受け取った査定用紙には人事の手が入っているのよ。」
「えぇっ?」
「元々の用紙にはね、あなたのしている業務は秘書の範疇を大きく超えているものだからその分を正当に評価してきちんと昇給すべきだってことを書いてたの。
その部分、人事が勝手に削除したのよ。」
「!!!」
「ウィルの不在中に人事からの電話を取り次いだことあったでしょう?
そのあと私にまわしてくれた電話よ。
あの時に人事は査定用紙に給料の事を書くのは控えて欲しいって言ってきたのよ。
その部分を削除して再提出してくれないかって・・・」
ニコレッタは続けます。
「そんな決まりはどこにも書いてないし納得出来るような説明を求めたんだけど、とにかく困るから削除してくれないと受け取れないと言い張るわけ。
私はそれが必要だと思うから書いたんであって訂正する気は全くない、そんなに削除したいのなら自分たちの責任で勝手にやって欲しいといって突っぱねたの。」
そんな裏事情があったなんて・・・
それにしてもニコレッタ、私のために人事にけんか売ってくれてたなんて・・・
「事務所は社員一人一人の立場なんて考えてないし面倒なんて見てくれない。
結局私たちは頭数にしかすぎなくなっちゃったのよ。
自分の身は自分で守らなきゃ・・・。
これは他言すべき事じゃないけど、こういう背景があったことをあなたには知っておいてもらいたかったのよ。」
私は何と反応して良いのかわかりませんでした。
人事課に対する反発はあまり感じませんでした。
所詮、予算決定の権限などなく経営陣から示された数字の範囲内で割り振りするしか策がないのだろうということは推測出来ましたから・・・
私以上に憤慨してくれたニコレッタの優しさに大感激しながらも
合併後に社内を覆い始めた絶望的な閉塞感に息がつまりそうでした。
4ヶ月後に次年度のお給料の発表がありました。
お給料が高めのシニア秘書の多くが給料据え置き措置となり頭打ちにされました。
今までで初めてのことでした。
消費者物価指数は昨年比3%程度上昇していましたからその分実質減給でした。
私のお給料は微々たる増額でしたが、消費者物価指数の増加率よりは低いものでした。
そもそもパイがなかったのです。タイミングが悪すぎました。
弁護士秘書の数減らしを謀る事務所の意図は見え見えでした。
オツボネ秘書に退職金を出して解雇するより自ら辞めて行ってもらおうという魂胆です。
弁護士秘書にもう未来がないのはハッキリしていました。
誰もがアンハッピーで士気も下がり、秘書が三人寄れば愚痴大会になるような暗鬱な雰囲気が社内に蔓延しました。
焦りだけが募って行きます。
静かなる戦いが始まりました。
1.査定する上司と査定される部下のそれぞれが一年の仕事を振り返ってスキル評価、達成事項、改善案などについて査定用紙に記入して人事課に提出します。
↓
2,人事がチェックしてコピーをとった後で、上司の評価が部下へ、部下の自己評価が上司へ渡されます。
↓
3,それぞれが記入した査定用紙を突き合わせて上司と部下が話し合いを行い、今後の努力目標や研修等について合意した事項を更に別の用紙に記入署名して人事課に提出します。
複数の弁護士のお世話をしている秘書の場合、一年以上一緒に働いている一番シニアの弁護士が査定をすることになります。
しかし超多忙なパートナーを長年勤めているシニア秘書等は、時間がないと言って人事に泣きついて免除してもらう人もいます。
実際10年以上も同じ弁護士について毎年毎年同じ仕事をこなしているベテラン秘書にとって「今年の新たな目標を書け」なんて言われても困っちゃうんですよね。
そもそも秘書にキャリアアップの道なんて示されていないんですからムダと考える人も多いのです。
私がポジションを変わる一年前の査定はウィル とニコレッタ が共同で査定してくれました。
私にとってウィルが一番シニアのボスでしたが、ウィルの秘書を勤めてまだ一年以上経っていなかったからです。
ウィルとニコレッタとはとても良い人間関係にあったので、査定のミーティングといっても近くのカフェに抜け出してコーヒーを飲みながら和気あいあいとしたものでした。
人事経由で受け取った査定用紙には良いコメントばかり書いてくれていました。
彼らは私が秘書のポジションから抜け出してもっとスキルを活かせる仕事につきたいことを知っていて「応援するから」と励ましてくれました。
さて、カフェからの帰り際、ニコレッタが「ちょっとオフィスに寄ってって」と手招きします。
そして「そこドア締めて」と合図します。
何か内緒話があるようです。
「どうしたの?」と聞くと
「査定の件でちょっと耳に入れておいてほしい事があるのよ」と言います。
「実はね、あなたが受け取った査定用紙には人事の手が入っているのよ。」
「えぇっ?」
「元々の用紙にはね、あなたのしている業務は秘書の範疇を大きく超えているものだからその分を正当に評価してきちんと昇給すべきだってことを書いてたの。
その部分、人事が勝手に削除したのよ。」
「!!!」
「ウィルの不在中に人事からの電話を取り次いだことあったでしょう?
そのあと私にまわしてくれた電話よ。
あの時に人事は査定用紙に給料の事を書くのは控えて欲しいって言ってきたのよ。
その部分を削除して再提出してくれないかって・・・」
ニコレッタは続けます。
「そんな決まりはどこにも書いてないし納得出来るような説明を求めたんだけど、とにかく困るから削除してくれないと受け取れないと言い張るわけ。
私はそれが必要だと思うから書いたんであって訂正する気は全くない、そんなに削除したいのなら自分たちの責任で勝手にやって欲しいといって突っぱねたの。」
そんな裏事情があったなんて・・・
それにしてもニコレッタ、私のために人事にけんか売ってくれてたなんて・・・
「事務所は社員一人一人の立場なんて考えてないし面倒なんて見てくれない。
結局私たちは頭数にしかすぎなくなっちゃったのよ。
自分の身は自分で守らなきゃ・・・。
これは他言すべき事じゃないけど、こういう背景があったことをあなたには知っておいてもらいたかったのよ。」
私は何と反応して良いのかわかりませんでした。
人事課に対する反発はあまり感じませんでした。
所詮、予算決定の権限などなく経営陣から示された数字の範囲内で割り振りするしか策がないのだろうということは推測出来ましたから・・・
私以上に憤慨してくれたニコレッタの優しさに大感激しながらも
合併後に社内を覆い始めた絶望的な閉塞感に息がつまりそうでした。
4ヶ月後に次年度のお給料の発表がありました。
お給料が高めのシニア秘書の多くが給料据え置き措置となり頭打ちにされました。
今までで初めてのことでした。
消費者物価指数は昨年比3%程度上昇していましたからその分実質減給でした。
私のお給料は微々たる増額でしたが、消費者物価指数の増加率よりは低いものでした。
そもそもパイがなかったのです。タイミングが悪すぎました。
弁護士秘書の数減らしを謀る事務所の意図は見え見えでした。
オツボネ秘書に退職金を出して解雇するより自ら辞めて行ってもらおうという魂胆です。
弁護士秘書にもう未来がないのはハッキリしていました。
誰もがアンハッピーで士気も下がり、秘書が三人寄れば愚痴大会になるような暗鬱な雰囲気が社内に蔓延しました。
焦りだけが募って行きます。
静かなる戦いが始まりました。
- 梅森 浩一
- 「査定!」論。