最初の記憶 | INDIGO DREAMING

最初の記憶

自分が生まれたときのことを記憶している人がいるが、私の人生の一番最初の記憶は離乳食の頃だ。
この時の記憶はその時点からずっと覚えていたものではなく、あることをきっかけに思い出したものだ。私の経験でいうとビデオや写真を少し後で見せられたりという「きっかけ」により早いうちに思い出した3才くらいまでの感情はその後も忘れずに覚えている。
(ちなみにその時点からずっと忘れずに覚えていた最初の記憶は3才の頃のある事件 だ。)

離乳食の時の記憶は一時すっかり忘れていたのだが中学生の時に突然思い出したのだった。

中学生の時、飼っていたつがいのインコから6羽のヒナが誕生した。
親鳥が生育の悪いヒナ達のえさやりを放棄したので人間が代理でえさをやることになった。

ヒナの胃袋がパンパンになって爆発しそうになるまでスポイドでえさを流し込む母。

「そんなに詰め込んだら可哀相だよ~。」

「これくらい入れておかないといけないのよ。必要量なんだから。」

母は結婚して専業主婦になるまでは准看護婦として働いていた。
全てを効率よくテキパキとこなす。一羽、二羽、三羽。

羽毛の生えていないヒナ達のお腹から粟玉が透けて見える。

その時、突然自分が赤ん坊だった頃の感情が甦ってきた。

母が私の口の中に離乳食のスプーンをむりやり押し込む。

口の中がいっぱいでなかなか呑み込めない。

母が「はい、アーンして、アーン」と急かす。

まだ口の中に半分残ってるんだよ。もうちょっと待ってよ。

そう抗議したいがそのような言葉はもちろんまだ知らない。

でも文句を言いたくて唇をちょっと開いた瞬間に母が次のスプーンをすかさずねじ込む。

母は傍にいた別の大人の方を向き、自分の手際の良さを誇るような勝利に満ちた笑みを浮かべる。

私は悔しくて惨めな敗北感を味わっていた。

「はい、もう一回アーンして、アーーン、アーーーン」

もうその手口にはのらないぞ。


あの時の怒りを追体験している自分がいた。

そうか、私もこのヒナ達と同じ目に遭っていたんだ。

デーヴィッド チェンバレン, David Chamberlain, 片山 陽子
誕生を記憶する子どもたち