INDIGO DREAMING -21ページ目

駆け込み結婚はできません

彼のビザが切れる前にとりあえず結婚の決意はした。
決意はしたけれどもビザが切れる直前に駆け込みで籍を入れるつもりはなかった。

「わかった、結婚することに決めたよ」
「で、いつ? いつ? いつ?」

「来年おばあちゃんの喪が明けてから

「・・・その前に僕のビザ切れちゃうよ。わかってる? 日本から出て行かなきゃならないんだよ?」

「じゃあ、いったん出ていけばいいじゃん。出たら結婚できなくなるわけじゃないし。それとも何、あんたはビザ更新のために結婚して欲しいわけ? そんな偽装結婚もどきみたいなこと私はいやだからね。」

彼の落胆と言ったらもう・・・

アーティストビザは身元保証人が保証さえすれば一年毎に更新できるビザである。
彼は身元保証人に「もう一年お願いします」と頼む勇気がなかった。
長距離交際に見切りをつけて私と一緒に暮らすために身元保証人の目の届かないところに引っ越して来てしまったからである。

彼は危険を冒して私に賭けていたわけだ。

「あのね、あんたの気持ちはよくわかるよ。でもさぁ、ものごとには順序ってものがあるでしょ。まだ母国のご両親に紹介もしてもらってないんだよ。」

「・・・・」

「ビザ切れて帰ったら、お正月休みに私、会いに行くからさ。その時ご両親にまず会わせて」

「・・・・」

「それから喪が明けたら結婚して改めてビザの申請すればいいことでしょ」

「・・・・」

まあ、ふつう一番引き止めてもらいたい人に「ビザが切れたら荷物まとめてとっとと帰れ」と言われたらムッとするのも当然であろう。

でも最後には心を鬼にして突き放した私のドライさが勝った。

彼はクリスマス前に家族の待つ母国へ帰る航空券の予約をした。 つづく



著者: 國分 康孝
タイトル: 「いい結婚」ができる人できない人―後悔しない「相手・条件・時期」とは

ホワイトクリスマスの思い出

私の故郷は雪国である。
初めての二人一緒のクリスマスを過ごすために彼はこの雪国を訪ねて来た。
一緒に暮らす決断をする前、まだ長距離交際をしていた時だ。
彼にとっては初めての「ホワイトクリスマス」でもあった。

イブの日は土曜日だった。
午前中の仕事が終わってから彼との待ち合わせ場所に急ぐ。
彼は両手をポケットにつっこみ、寒さにふるえながら待っていた。
私に気がつくと微笑みながら歩み寄って来た。

「ポケットに手をつっこんだまま歩くんじゃないよ」って言おうとしたその時

ずっでーん

彼の視界からは私が消えて星が飛び散っていた。

すべって転びやがったのである。
しかも雪国人にはとうてい考えられないような痛々しい
頭からの着地であった。

「だっ だっ だいじょーぶ?」

「・・・・・」(顔面蒼白)

「目の前がぱちぱちいってるよ・・・ぼっぼくの瞳孔、開いてるかい?」

そういえば、なんか瞳が開いたままウルウルしてるよ、この人。
焦点定まってないし・・・やばいかも。

脳に影響があったら困るので病院に連れて行くことにした。


と思ったら土曜の午後である。
地方病院なんて診療時間外じゃん。

「先生、急患さんでーす。CTお願いしまーす」

告白してしまうが、彼がX線CTを受けている間、私が心配していたのは彼のことよりも、外国人が保険証なしで受ける急患扱いの
診療代の方だった。

結局、脳は異常なし。お金もその場で要求はされなかった。

ロマンチックなはずのクリスマスイブは台無し。
でも絶対に忘れることの出来ない思い出はできた。


雪国の掟その1
どんなに寒くても歩く時はポケットから両手を出すべし。
頭から着地するよ。



著者: NoData
タイトル: 山下達郎「クリスマス・イブ/ホワイト・クリスマス」―ピアノ弾き語り

アーティスト的美術鑑賞

昔から美術鑑賞が好きだった。アーティストと結婚したことはそれとは何の関係もないけど。

結婚するまでは私は展覧会にはいつも一人で行っていた。
他人のペースを気にしないでゆっくり見たかったからだ。

実は私は説明文を全部読まないと気がすまないタイプだった。
しかも語学屋のサガというべきか、英語とかフランス語の併記もあったら、ついついそれも読んでしまい展覧会場がたちまち語学勉強会場を兼ねてしまっていた。はっきりいって作品を見るよりも説明文を読むのに費やす時間の方が長かった。
「交通費かけて高い入場料払って人間の頭を見物しに行った」という表現がぴったりくるような展示会で「なんとか元を取らねば!」というせこい心理が働いていたせいもあるかもしれない。

でも、さすがに結婚してからは一人で見に行くことは滅多にない。

夫はアーティストなのだから、美術には人一倍関心があるはず。
彼は私のように「ゆっくり見る派」に違いない。

という淡い期待は見事にぶち壊された。

この人、興味のないところは徹底的にすっ飛ばすのである。
当然説明文なんて読まない。

日本人とアメリカ人が信奉するルノワール等の印象派がお嫌い(ゴッホは別)。
個性の微塵も感じられないドイツ写実派も大嫌い。
猿まね大嫌い。だから日本の近代洋画家もほとんど全滅である。

「Boring. こんなの見る価値ない」とか言って立ち去られた後でどうして鑑賞を楽しめというのだ。
挙げ句に出口で待ちくたびれて「まだ~?」と急かしに来ることさえある。
サイテーの美術鑑賞の供である。

こんな、いただけない彼ではあるが、無言でいろんなことを教えられたような気もする。

つまり、美術鑑賞というのは自分の感性との対話であるべきで、知識を押し付けられて有難がるものではないのだということ。

今まで私はこれは誰の作品だとか、どんな素材だとか、いつどこでどのような経緯で創られたのかとか、アーティストが何を表現しようとしたのかとか、そういう背景知識を得ることによって作品の理解が深まると信じていた。そして、それに何の疑問も持たずに受け身の姿勢で美術鑑賞していたのだ。でもそういった情報が多ければ多いほど、作品とは感性よりも理性でつながるようになってしまう。

気に入った作品の前では時間も忘れてえんえんと眺め続けている彼をみると、感性だけで作品とつながることができる子供の目を持ち続けているのだな~と羨ましく思う。

彼を見ていたら情報蓄積に腐心していた自分がばからしくなってきて、今は以前ほど丁寧に説明書きを読まなくなった。 

でも、始めっから欠如してる感性を今から磨くのは・・・

もう手遅れかも・・・

と最近感じている。


著者: 視覚デザイン研究所
タイトル: 巨匠に教わる絵画の見かた

貧乏アーティストの大きな買い物

ある店にけっこう気に入ったエスニック調のピアスがあったのだけど高かった。
8000円。
正直ぼったくりだと思った。
きっと安く仕入れてるくせに。

そこでいいことを思いついた。
彼を店に連れて行って聞いてみた。
「ねーねー、こういう感じのピアスが欲しいんだよね。あんた作れない?
「いゃあ、これは無理だよ。一つだけ作るのにはコストが見合わないよ」
「あっそう、ざんねーん」
モノに対する執着心があまりない私はたいした気にもとめず、すぐに忘れてしまった。

ところが・・・・

あれは誕生プレゼントだったのかな~、彼が例のピアスをプレゼントしてくれたのである。

素直に喜べばいいのだけど喜べない。

「まさか、あんた正値で買ったわけじゃないよね?」
「いやあ、正値で買うしかなかったよ。」
「うっそー、あのピアスに本当に8000円も払っちゃったの? 別に買ってとは頼まなかったじゃない。」
「でも欲しいって言ってたじゃないか。喜んでもらいたいと思って奮発して買ったんだよ。」

アーティストの彼が、超貧乏の彼が、不当に高いということがわかりきっているピアスになけなしの金を使うとは・・・
まったく予期せぬ行動だった。

愛は貧乏男をも散財させる。

その2ヶ月後。その店のセールであのピアスが2900円に値下がりしていた。

くーやーしー


著者: 伊集院 静
タイトル: 可愛いピアス

世界でたった一つのエンゲージリング

エンゲージリングを用意しろと言われた彼は、まあ、アーティストだから自分でデザインした。

「どんな石がいい?」
♪そーおーね、誕生石ならルビーなの♪ 
でも青の方が好きだからサファイヤがいいよ。

日本ではジュエリー用の道具を持ってなかったので知り合いのジュエラーさんに作ってもらった。
出来上がったのは流線型のプラチナに小さなサファイヤがはめ込まれたオリジナルリング。
世界でたった一つのエンゲージリングはやっぱり嬉しい。

でも彼、完璧主義のアーティストだから、オリジナルデザインよりもカッティングが浅く仕上がって来たことがちょっと心残りのよう。
「母国にいたら道具があるから自分で作ったんだけどな~」と残念そうに言う。

私も可愛くないもので
「どうせたいした金払ってないんでしょ。いくらで頼んだのよ?」
とつっこむ。

「ん? 材料費込みで三万円」(正直なやつ)

知り合いのジュエラーさんがとっても気の毒になった。
ジュエラーさんも彼のことをとっても気の毒に思っていたに違いない。

貧乏人にとってみればそれでも大きな買い物ではある。

これよりも安いエンゲージリングもらった人は名乗り出てください。
でも50年前はナシね。


著者: 瀬田 貞二, 田中 明子, J.R.R. トールキン
タイトル: 文庫 新版 指輪物語 全9巻セット

台無しプロポーズ

「それで結婚の決心してくれた?」と彼。

素直に「決断しました」とは言えないあまのじゃくの私。

「そもそもさ~。私プロポーズされたっけ? されてないよねぇ。」

「えっ、何をいまさら」

「いや~、プロポーズの言葉聞いた覚えないんだよね。」
「じゃ、will you marry me?」

「何それ~? そのとってつけたような言い草は。
ぜんぜん心こもってないじゃん。心こめていいなさいよ。」

「WILL YOU MARRY ME?」

「ゆっくり言えばいいってもんじゃないでしょーが。
まずセッティングを考えなさいよ。
普通ひざまずいて言うもんなんじゃないの?」

「えー? いやだよ、ひざまずくなんて恥ずかしい。」

「でも、あんたの国ではプロポーズする時ひざまずくのが普通でしょう?
それにエンゲージリングは?」

「エンゲージリング欲しいの?」

・・・・絶句・・・・・

「顔洗ってエンゲージリング用意して出直しておいで!」


「・・・・で、結婚決めてくれたの?」

だめだこりゃ。



タイトル: 101回目のプロポーズ

決断の時

一緒に暮らして半年。彼のアーティスト・ビザの滞在期限が刻々とせまっていた。
だんだん焦ってきた彼は早く決心してくれとせがむ。
私は今ひとつ心が固まらない。

家で待ってくれている人がいることは一人暮らしの寂しさからの解放でもあったけど、ちょっと会社帰りに寄り道して帰ることさえ気ままに出来なくなるのは束縛以外の何物でもなかった。

風の向くままふわりふわりと飛んでいく風船が誰かに捕まえられてしまったようだった。
本当にこれでいいの?
けんかばかりの半年だったじゃない?
でもこの人は私の一番醜い部分を見てそれでもいいと言ってくれてる。

そして、家政夫が面倒を見てくれる生活もちょっと捨てがたくなっていた。
早い話がはまってしまったのである。

結婚? 私が結婚? 
出来るの?

乗りかかった船だ。
航海してみることにするか。


著者: アギー ジョーダン, Aggie Jordan, ハーディング 祥子
タイトル: 今日から1年以内にベスト・パートナーと結婚する13の方法

ダイヤモンドの原石をめぐる誤解

彼はもしかしたら孫悟空に対するお釈迦様みたいに私を手のひらで遊ばせてくれるような大きな存在かもしれない。
そんな淡い期待を抱いて付き合うことを決めた時、彼は感動してこう言った。

「僕は今、ダイヤモンドの原石を手に入れたようだよ。これからこれを長い時間かけて磨いていくのが楽しみだよ」(ぷっ キッザ~)

私は一気に興ざめして反発した。

「おいおい、何で私が原石なんだよ? 何であんたに磨かれなきゃいけないんだよ? 私はモノじゃない!!!」

「ちょっと待って! 誤解だよ。」

「僕が例えたのは二人の関係のことで、これから二人で一緒に磨いて行こうねって意味で言ったんだよ」

へっ? そうでした? 思い込み激しいから私。自分がダイヤモンドだって思っちゃってるから、もう。
失礼しました~。

国際結婚の掟その1
疑問に感じること、言いたいことは黙ってないではっきり口に出すべし。
誤解ってこともありますョ。


著者: 田原 敦子
タイトル: 転がる石はダイヤモンド

ヨンフルエンザ?

この間、日本から遊びに来た友達が「今ね、日本でヨンフルエンザが蔓延してるんだよ」と教えてくれた。

奥様たちが自嘲気味に「私、ヨンフルエンザにかかっちゃったみたい。」「あらやだ、私もよ」とやってるんだって?

中にはヨン型からイ型やピ型などの亜種に移っていくケースもあるらしく、そうなるとハンフルエンザかいな?

本題(TBネタ)に入ります。

うちの夫は日本に行く度に風邪をひく。
ついでに日本の添加剤だらけの安チョコレートを食べてじんましんも起こす。

普段は家にこもりっきりで作品作りをしていて人と接触することがないもんだから免疫力がないのである。毎日、空調の悪いオフィスビルで病原菌をあびつづけて鍛えている私とは雲泥の差。職場で風邪が流行っているときなんて、私が媒体になって彼だけうつって寝込む場合もあって恨まれる。

そんなヤワだから飛行機に乗って長距離旅行するとイッパツである。鳥フルにあたったらすぐ死ぬタイプだ。

旅先で病気になってしまうことの惨めさは良く理解できるけど、楽しみにしていた旅行や里帰りを病人にぶちこわされるのも惨めである。

歩くのもやっとの夫を追い立ててスーツケース二人分引きずって歩いているとだんだん腹が立ってきて

「なんでいっつもいっつも旅先で風邪ひくんだよ~!」といたわる前につい怒ってしまう。
「僕だって風邪ひきたくてひいてるわけじゃないんだよ。すごくツライんだよ」
気力が足りないんだよ、気力が~~~」
夫からは「優しさのかけらもない冷血女」と呼ばれる。

しかしだ、熊本に初めて観光に行ったら、やっぱり「とんこつラーメン」食べたいでしょう。
今度いつ行けるかわからないんだから。

「ランチはぜったい○×のとんこつラーメンね!」
「ええっ?ラーメン? そんな脂っこいもの風邪ひいてるときに食べたくないよ~」
「だから風邪にいいんだって。にんにく入ってるし、あったまるし、それに熊本来たらラーメン食べるって決まってるんだよ」 (と半ば強引に説得)
「ぜったいヤダ。僕はスパゲッティが食べたい。」
「スパゲッティ?そんなもんいつでも食べられるやん。同じ麺ちゃうんか~。」 (あきらめの悪い女)
「洋食が恋しい。スパゲッティがどーしても食べたい。」 (この頑固オヤジ)

日本に帰っておいしいラーメン食べるのを楽しみにしてたのにこれである。
最後には私が折れることになるのだが、食べ物の恨みは恐ろしい。
いまだに根に持って日記に書いているほどである。

また脱線した。

今度こそTBの本題。

予防薬。私は悪寒の予感がしてきたときにエキナシアのシロップを飲む。ビタミンC錠剤とあわせて飲むと相乗効果でばっちり。ただしひどくなってしまった後では効果なし。喘息もちの人はアレルギー反応がでるので気をつけて。


著者: 野口 晴哉
タイトル: 風邪の効用

芸術は爆発だ!

無の状態から作品が完成するまでの過程を進行形で楽しむことができることは、アーティストと一緒に暮らす者の特権だとも言える。

少しずつ形が出来上がっていくのを観察するのはなかなか興味深い。

たまに途中経過の作品を見せられて感想を求められたりすることもあるし、気がつくと身近な事物が題材に使われていたりすることもある。

でも、いつも良いことばかり観察できるというわけでもない。

一緒に暮らし始めてまだ日も浅かった頃、普段はおだやかな彼がいきなり、うわ~~~あ~あ~あと叫びだして「FXXK YOU! FXXK YOU! FXXK YOU! FXXK YOU! FXXK YOU! FXXK YOU!」と罵声を連発したことがある。

「えっ? 私なにか悪いことした?」っとひるんだ矢先に今度は頭を壁にがんがんぶつけだす始末。
マジでこわすぎる~。危害を加えられたわけではないが、あの時ほどびびったことはない。

事情を聞くと1ヶ月もかけて作った作品が仕上げの段階で水の泡になってしまったことが判明した。

一生懸命タイプした文章が二時間分消えただけでもキレそうになることを考えれば、一か月分は・・・やっぱり発狂するか。


著者: 岡本 敏子
タイトル: 芸術は爆発だ!―岡本太郎痛快語録